平野は人間が生活する中心的な場所です。
今回の記事では平野を掘り下げて見ていきましょう!
目次
平野の分類
平野には侵食平野と堆積平野の2種類あり、両者はかなり異なる性格を有しています。
侵食平野
侵食平野は水や風などによる侵食でできた平野です。
侵食輪廻説で言うと最終段階である準平原に当たり、ここに至るまでにはかなりの時間を要することから安定陸塊が広く分布する大陸部に多いです。
侵食輪廻説については以下の記事をご覧ください。
卓状地が侵食されてできた平野を構造平野と呼び、楯状地と合わせて準平原と呼ばれます。
構造平野
分布
構造平野は安定陸塊の卓状地周辺に分布しており、大きなものでは北アメリカ大陸中央部の中央平原やヨーロッパ平原、オーストラリア中央部の大鑽井盆地などがあげられます。
構造平野内の地形
構造平野内にはいくつかの特徴的な小地形がみられます。
残丘
残丘は卓状地の硬い地層が侵食から取り残されて丘陵や台地状になったものです。残丘は楯状地にも見られますが、構造平野の残丘が地層の堆積によるものであるのに対し、楯状地の残丘はマグマが下から押し上げてきて冷え固まった(貫入という)硬い岩石が取り残されます。
メサとビュート
残丘のうち、構造平野にあるものはメサとビュートに分類されます。
メサは上面が比較的広いテーブル上の地形で、ビュートは上面が狭いタワー状の地形です。
成因はどちらも同じで、上方向の侵食から取り残された地層の一部であるため、あまり意味のある分類とは言えません。
代表例はアメリカのモニュメントバレーです。
メサは乾燥した地域や構造平野で発達しやすいですが、日本にもいくつか存在しており、国土地理院はメサとビュートの定義を次のように定めています。
メサ 水平な硬岩層に覆われ、周囲の一部を急崖で囲まれたテーブル状の高地。
ビュート メサが開析され、頂面が小さく孤立丘となったもの。
開析とは侵食により山や丘が細分化される作用で、谷が山を開くイメージを持ってもらうと覚えやすいと思います。
日本にあるメサ・ビュートをいくつか紹介します。
- 万年山(大分県)…メサ
- 大峯山(島根県)…メサ
- 飯野山(讃岐富士)(香川県)…ビュート
香川県のメサ・ビュートについてはこちら
ケスタ
ケスタは緩く傾いた硬軟の互層(硬い層と軟らかい層が交互に重なっている地層)が侵食を受けることによってできる地形です。
侵食は軟らかい層で速く進むため、地表にはのこぎりの歯のように、急斜面と緩斜面が連続して現れることになります。
パリやロンドンのものが有名です。
下に示したのはフランスの国立地理調査所が作成した地形図の閲覧サービスによるもので、フランス・シャンパーニュ地方のCôte des Blancsというワイン用ブドウ畑で有名な地域のもので、紫色の線に対し西側が緩斜面なのに対し東側が急斜面になっていることがわかります。
堆積平野
堆積平野は土砂の堆積によってできた平野で、侵食平野よりは小規模なものになります。
河川が作った沖積平野と、古い沖積平野などが隆起してできた洪積台地に分けられます。
沖積平野
沖積平野は河川が山を削り、海や湖を埋め立ててできた平野です。日本で「平野」と名前が付く場所はこれである場合が多いです。
川に沿って、上流から扇状地、氾濫原、三角州というように分けられます。
扇状地
扇状地は河川が山から平野へ出た際に、河床勾配(傾き)が小さくなることと、谷幅が広くなることにより運搬力が減り、川が運んでいた土砂が堆積することでできる地形で、扇形をしていることからこの名が付きました。
谷口に近い部分を扇頂、中央部を扇央、外縁部を扇端とよんで区別することもあります。
扇頂
扇頂では谷口で水が豊富に得られることから集落や水田が見られます。
また、大規模な扇状地の扇頂では、山間部との交通・取引の中心地として谷口集落と呼ばれる商業都市が生まれる場合もあります。
例は関東平野西端部の青梅・飯能・寄居などです。
扇央
扇央では川が伏流し(地下を流れるようになる)、水が得にくくなることから畑や果樹園として使われています。
古くは養蚕を支える桑畑としての利用も多い地域でした。
扇端
先端では伏流していた水が湧き水として現れ、水が豊富であることから集落が湧水帯に沿って並んでいます。
扇状地では山間部から平野に出るときの勾配が緩くなることで土砂が堆積するとよく解説されますが、本当にそうなのでしょうか?
先ほど地図を入れた京戸川扇状地の例を見てみましょう。
扇端の前後で勾配があまり変わっていないことがわかります。
実は、河川が土砂を運ぶ力は勾配と水深に比例しており、影響を及ぼしているのは水深なのです。
側方が自由になり水深が下がることで土砂を運ぶ力が鈍り、土砂が堆積したのが扇状地です。
氾濫原
川の中流から下流域にかけての地域で、河川の氾濫などによって作られた平地を指します。氾濫原で河川は流路を転々としながら平地を作っていきます。
これは、河川が平野の最も低いところを流れる一方で、流路の河床には土砂が溜まることからいずれは周囲のほうが低い状態となり氾濫して新たな流路となることを繰り返していくということです。
自然堤防
自然堤防は河川が氾濫した際に、流路のわきに土砂を堆積させることでできた微高地で、比較的氾濫による被害を受けにくいことから集落や畑が立地しています。
後背湿地
自然堤防以外の低地で、河川が氾濫すると水につかる地域です。
水田としての利用が主でしたが、近年の河川改修や水害対策によって、安く広い土地に目を付けた新興住宅地や公共施設がよく見られます。
下に示したのは揖斐川・長良川に挟まれた輪中地域の自然堤防と後背湿地です。
自然堤防沿いに集落があることがわかります。
三日月湖(河跡湖)
河川が流路を変えた際に、元の河道が湖沼となって取り残されたものです。
本来はよく見られるものですが、多くは埋め立てられているため、日本の三日月湖では石狩川流域のものが有名になっています。
天井川
天井川は土砂の供給が多い河川で、河床に大量の土砂が堆積することで周囲より川の方が高い位置にある状態になった河川のことを言います。
本来はこのような時に、河川は氾濫してより低い流路をとるようになるのですが、人工の堤防により氾濫することができない河川ではこのような姿になることがあります。そのため半人工の地形ということもできるでしょう。
古くから流路が固定されており、かつ土砂供給量の多い関西の河川に多く見られます。
関西の河川で土砂供給量が多いのは、上流の山地が花崗岩である場合が多いからです。
花崗岩は風化(場所を変えずに物理的・化学的に変化すること、例えば粒が細かくなったり溶けたりする)すると真砂と呼ばれるさらさらの非常に崩れやすい土壌となるため、河川によって大量に運び去られます。
下に示したのは滋賀県・草津市の草津川の例です。JRの線路がトンネルになっているのがわかります。
現在では、水が放水路に下ろされ、国道2号では切通工事が終わっています。
三角州
三角州は河川が海にそそぐ際に土砂を堆積させてできた地形で、おおよそ三角形の形をしていることから名が付きました。
英語名もデルタ(Delta)であり、ギリシャ文字のΔ(デルタ)に由来しています。
形状により分類がされる場合がありますが、これについても経験則的な分類で、大きな意味はありません。
カスプ状三角州
英語のカスプ(とがったもの)が語源で、その名の通り、一部が海側に突き出した三角州です。
突き出している部分は現在の本流であり、土砂の供給が豊かな本流沿い以外では堆積量が少ないか強い沿岸流によって土砂が運び去られてしまっていることを表します。
下は滋賀県・姉川の例です。
円弧状三角州
最も標準的な三角州で、海に張り出している部分が円弧の形をしています。
下は滋賀県・安曇川の例です。
鳥趾状三角州
鳥趾とは、鳥の足(脚ではない)のことで、そのような形で海に張り出した三角州を言います。
このような形ができる原因は、河川が土砂を堆積させていくことで河川が延長されていくことであり、土砂供給量が多い河川や沿岸流が弱い水域で見られます。
下はアメリカ・ルイジアナ州・ミシシッピ川の例です。
鳥趾状三角州のみアメリカの例を紹介しましたが、日本に鳥趾状三角州はないのでしょうか?
鳥趾状三角州は土砂供給量が多い一方で沿岸流が弱くなければならず、日本では条件が大変厳しいです。
土砂供給量が多い河川は当然流域面積を広く持っていますが、日本においてそのような川が湖沼や奥深い湾など穏やかな水面に流れ込むことはありません。
しかし、かつてはあったのです。
霞ケ浦の南、十字線のあたり、うっすらそれっぽいのが見えませんか?
そう、ここはかつての鳥趾状三角州が隆起した隆起三角州なのです。
これを作ったのは最終間氷期(最後の氷期、およそ7~1万年前の一つ前の時代)中の古鬼怒川と呼ばれる河川で、現在の鬼怒川よりやや東を流れていました。
この時期は温暖で、筑波山のあたりまで海面が迫っていましたが、現在の茨城県から千葉県にかけての地域は細長い砂州により太平洋と古東京湾に隔てられており、古東京湾は穏やかな湾だったようです。
これにより鳥趾状三角州ができましたが、海面の低下によって相対的に隆起し、現在の姿になりました。
この写真は黒部川の河口部。日本海に流れ込んでいる部分が張り出していますね。
きれいな円弧状三角州…ではなく実はこれは扇状地なんです。
南東に山が見えますが、ここを扇頂とし海岸線を扇端とする大規模な扇状地なんです。
黒部川の上流は北アルプスであり、大量の水と土砂が流れ出すためこのような地形になっています。
じゃあどうやって見分けるんだ…と思った方、実は河川の流れ方にヒントがあるんです。
三角州より扇状地の方が土砂の粒が大きいことがミソで、河川は粒径が大きくないとできない流れ方をしていることから見分けることができます。
それは網状流と呼ばれる流れ方で、写真を見ていただけると河道の中で水が細かく分かれては合流し網目のように流れていることがわかると思います。
同様の理由で天竜川や大井川なども河口域は三角州というよりは扇状地に近い地形であることがわかります。
種類 | カスプ状三角州 | 円弧状三角州 | 鳥趾状三角州 |
土砂供給量 | 少ない | 中程度 | 多い |
沿岸流 | 強い | 中程度 | 少ない |
洪積台地
洪積台地は更新世(170万年前~1万年前、氷期と間氷期を繰り返していた時期)にできた古い平野が隆起したものです。
かつてはこの時代を洪積世と呼んでいたためこの名が付きましたが、現在ではこの用語が使われなくなったため洪積台地を単に台地と呼ぶこともあります。
関東平野には洪積台地の典型的なものが見られます。
出典:産総研地質調査総合センター20万分の1日本シームレス地質図データベース
■■(緑色)…更新世(洪積世)の地層
■(水色)…完新世(沖積世)の地層
つまりこの緑色の部分が洪積台地であり、境目がかつての海岸線であったと考えられます。
洪積台地の上部では、水が得にくいことから田や集落には向かず、かつては畑、特に桑畑としての利用が顕著でした。
河岸段丘
河岸段丘は海面に対して土地が繰り返し隆起したときにできる地形です。
河川は、河床(川の底)が浸食基準面に近づくと側方侵食が顕著になります。
侵食基準面とは、侵食が進む限界の高度のことで、河口の海面または湖面標高がこれに当たります。当然ですが、一般的には河床が海面下になることはありません。
側方侵食とは、河川が谷を広げる働きで、逆に谷を深くする働きを下方侵食、もしくは下刻と呼びます。
さて、側方侵食で広がった谷が、相対的に隆起(谷のある地域が隆起する、または侵食基準面=海・湖水面が下がる)と、再びその谷では下方侵食が強くなります。
谷が深くなると、かつての谷底は干上がってしまうかもしれません。これが繰り返されてできたのが河岸段丘です。
氷河期には海水面が低くなったことから、土地が相対的に隆起したこととなり、このような河岸段丘が作られました。
代表的な例は群馬県の沼田市の、利根川とその支流による河岸段丘です。
海岸段丘
海が崖を削る際にできる段丘を海岸段丘と呼びます。
形成されるプロセスは河岸段丘と同じで、海が崖を削って海岸沿いに平地を作った後に土地が相対的に隆起することで階段状の地形が作られます。
河岸段丘同様、海岸段丘も各地で見られますが、著名な例が高知県・室戸岬周辺の海岸段丘です。
参考文献
アーバンクボタNO.32(1993)pp.56-63<https://www.kubota.co.jp/siryou/pr/urban/pdf/32/pdf/32_5.pdf>2020年7月1日閲覧.